

建築家とメーカーの理想的な関係
今まで色々なところでARAKAWA GRIPを使用しており、最近では外装と一部内装を担った「東急歌舞伎町タワー」内のラグジュアリーホテル「BELLUSTAR TOKYO, A Pan Pacific Hotel」に続く1階エントランスで、ガラスアートを組み合わせた吊り棚を製作した。300kg近くの荷重に耐えつつ、浮遊感を生み出すため、当初からこのワイヤーシステムで収めるつもりで設計を進めた。施工プロセスは複雑になり、整合性を取るのは大変だったが、無骨な鉄パイプなどで支えていたら、この繊細なデザインは活かせなかっただろう。結果としては、期待通りに仕上がった。
素材について、いつもできる限りの実験を徹底して行っている。私たちが何か新しいことをやろうと思った時に、一から素材やシステムをつくることはなかなかできない。もちろん、プロジェクトの規模によっては金物などからつくれることもあるが、通常は現行のものだけを使ってやるしかないわけで、工夫しながら自分のやりたい表現をどう実現するかである。一見すると不可能に思われる表現を試みるにあたり、荒川技研工業の製品のように、耐荷重などのスペックについて立証済みのパーツは少ないのでありがたい。
マテリアルやパーツ、プロダクトを選ぶ時の基準は、カスタマイズしたり部分的に変えられたらと思う時に相談に乗ってくれる柔軟さがメーカー側にあるかどうかである。頑なにカタログ通りの製品の扱いにこだわるところも少なくない中で、ディテールまで細かく一緒に考えてケアしてくれるのはありがたい。ブティック「ANTEPRIMA Singapore ION Orchard」をデザインした時には、既製品に意図したカスマイズを加えてもらうことで、アンテプリマ仕様として仕上げてもらった。
使う側のさまざまな提案が製品づくりに活かされることは素晴らしいことであるし、そのフィードバックこそが、メーカーとユーザーの理想的な関係と言えるだろう。