
ものづくりは人との巡り合い
荒川技研工業のワイヤーシステムをよく使うようになったのは、コムデギャルソンの仕事だ。1991年頃、イベントごとに天井から吊るトルソーなどを変えるというデザインがきっかけとなった。
同社の最初期のカタログである1985年版は、今も手元にある。当時はメーカーに実物を売り込みに来てもらうことがあり、製品について知ったように思う。インターネット検索のない頃の話だが、人が説明をしてくれるので、その良さがよく伝わった。また、実物についてだけでなく、その周辺にも情報がある。雑談する中で活用のヒントが湧いたり、製品を巡って人との結びつきが広がり、それがまた新たな製品化につながることがあった。例えば、洋書に掲載された小さな家具の写真の出どころを洋書屋さんに調べてもらい、その製品がスウェーデンの作家の作品であり、今は旭川でライセンス生産されていることを知った。そして、作家ともつながり、座面を革製に変え、飲食店で使うことになった。
インゴ・マウラーとは、ミラノサローネでの彼の展示会を訪れたのがきっかけで知り合い、その後にスケッチを送り、「コムデギャルソン」の店の照明器具をつくってもらうことにもつながった。人とものの関わり方は時代によって変わるし、ものにまつわるストーリーを豊かにすることが重要である。ワイヤーシステムに絡めて言えば、吊ることは「他との縁を切る」ということ。空間の中にそのものだけが存在しているように見えることである。浮遊感は、非日常のものであると共に、人が創造できる範疇の素晴らしい感性表現だろうと考えている。〈文責/高橋正明〉