テキスタイルの世界に新しい視点を加える
2001年、須藤氏の本格的な展覧会として海外でも話題となった「布・技と術」展が開催された。京都・室町にある廃校を再利用した「京都芸術センター」を会場とし、構成は京都の建築事務所・アルファビルの竹口健太郎氏と山本麻子氏に依頼。キュレーターからは、周辺地域が呉服の街であることを踏まえ、「テキスタイルを使って未来に向けた展示をしてほしい」という依頼を受けた。
そこで展示の一つに、当時理化学研究所が開発していたとうもろこし由来のポリ乳酸からつくった生分解性樹脂の繊維を加え、京都丹後地区の職人たちと一緒に織りあげ、赤く染め、茶室をつくった。さらに、錆で染めた布地による茶室も併せて展示した。また、テキスタイルができるまでの過程を建築家・松川昌平氏らが映像に仕上げ、今で言うところのプロジェクションマッピングとしてファブリックに投影した。いずれもテキスタイルの世界に新しい視点を加えた展覧会だった。
ファブリックを建築に採り入れる
須藤氏と建築家とのコラボレーションを振り返ると、NUNOが設立された年でもある1984年まで遡る。建築家伊東豊雄氏の自邸「シルバーハット」を舞台に、「テキスタイルのプロとしての提案をしてほしい」と、カーテンの設置の要望を受けたと言う。
「図面を見たら、どこにも垂直な窓がないので大変だった」最終的には、室内にテントのような形でファブリックのオブジェを設置することになり、当時小学生だったお嬢さんは蚊帳のようだと喜んでくれたそうだ。近年は空間をファブリックで分節することが増えているが、伊東氏は当時から外と内が曖昧になるようなコンセプト、あるいは被膜的な建築を設計していた。ファブリックを建築に採り入れたパイオニアであろうと須藤氏は考えている。
「伊東さんと出会えたことで、空間と物、光との関係、あるいは空間を構成する素材としてのテキスタイルの役割などを学べた」