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こいのぼりを世界で飛ばす

須藤玲子

こいのぼりを世界で飛ばす – 須藤 玲子
2018年に開催された国立新美術館の自主企画展「こいのぼりなう! 須藤玲子×アドリアン・ガルデール×齋藤精一によるインスタレーション」。同美術館で最も大きな展示室で、「布」のメンバーがデザインした約300点のこいのぼりが吊られた(撮影/加藤健)

こいのぼりを世界で飛ばす

日本を代表するテキスタイルデザイナー・須藤玲子氏は、ニューヨーク近代美術館やクーパー・ヒューイット・スミソニアン国立デザイン博物館、ギメ美術館など、世界の名だたる美術館で作品を展示するほか、多くの美術館で作品が永久収蔵されている。「布」のデザインディレクターであり、無印良品のデザインアドバイザリーボード、UCA芸術大学名誉修士、東京造形大学造形学部デザイン学科テキスタイルデザイン専攻領域名誉教授でもある。日本国内のさまざまな染織産地でテキスタイルを制作しており、大胆で斬新なインスタレーションの展示には、ワイヤーシステムが大きな役割を果たしている。〈取材・文/高橋正明〉

こいのぼりを世界で飛ばす – 須藤 玲子
2001年に京都芸術センターで開催された展覧会「布・技と術/ぬの・わざとわざ」。とうもろこし由来のポリ乳酸から作成した生分解性樹脂の繊維を吊り、茶室としている(撮影/井上隆雄) 
こいのぼりを世界で飛ばす – 須藤 玲子
デザインユニット・we+および写真家・林雅之氏とのコラボレーション展「nunonuno」では、布地が張られたキューブが1本のワイヤーで吊られ、ゆっくりと回転していた(撮影/林雅之)

テキスタイルの世界に新しい視点を加える

2001年、須藤氏の本格的な展覧会として海外でも話題となった「布・技と術」展が開催された。京都・室町にある廃校を再利用した「京都芸術センター」を会場とし、構成は京都の建築事務所・アルファビルの竹口健太郎氏と山本麻子氏に依頼。キュレーターからは、周辺地域が呉服の街であることを踏まえ、「テキスタイルを使って未来に向けた展示をしてほしい」という依頼を受けた。
そこで展示の一つに、当時理化学研究所が開発していたとうもろこし由来のポリ乳酸からつくった生分解性樹脂の繊維を加え、京都丹後地区の職人たちと一緒に織りあげ、赤く染め、茶室をつくった。さらに、錆で染めた布地による茶室も併せて展示した。また、テキスタイルができるまでの過程を建築家・松川昌平氏らが映像に仕上げ、今で言うところのプロジェクションマッピングとしてファブリックに投影した。いずれもテキスタイルの世界に新しい視点を加えた展覧会だった。

ファブリックを建築に採り入れる

須藤氏と建築家とのコラボレーションを振り返ると、NUNOが設立された年でもある1984年まで遡る。建築家伊東豊雄氏の自邸「シルバーハット」を舞台に、「テキスタイルのプロとしての提案をしてほしい」と、カーテンの設置の要望を受けたと言う。
「図面を見たら、どこにも垂直な窓がないので大変だった」最終的には、室内にテントのような形でファブリックのオブジェを設置することになり、当時小学生だったお嬢さんは蚊帳のようだと喜んでくれたそうだ。近年は空間をファブリックで分節することが増えているが、伊東氏は当時から外と内が曖昧になるようなコンセプト、あるいは被膜的な建築を設計していた。ファブリックを建築に採り入れたパイオニアであろうと須藤氏は考えている。
「伊東さんと出会えたことで、空間と物、光との関係、あるいは空間を構成する素材としてのテキスタイルの役割などを学べた」

こいのぼりを世界で飛ばす – 須藤 玲子
香港のアートセンター「CHAT」での展示の様子。こいのぼりは、ワイヤーシステム「BS-25」で吊られており、意図した「泳ぎ」を感じさせる(撮影/Sachiko Arakawa)

空間を泳ぐこいのぼり

須藤氏の作品では、こいのぼりのインスタレーションがよく知られている。直径1m、長さ3mのさまざまな意匠のこいのぼりだ。「弟に長男が産まれた時にプレゼントしようと考えたのが、こいのぼりづくりのきっかけだった」
2000年頃からは、こいのぼりをプロダクトとして制作。やがて毎年恒例のアイテムとなり、東京・六本木のデザイン発信拠点「AXIS」に入る自社ショップやギャラリーでも展示された。そして、これを見たワシントンのジョン・F・ケネディ・センター・フォー・ザ・パーフォミング・アーツの館長に気に入られ、依頼を受けることになった。

須藤玲子

須藤玲子

茨城県石岡市生まれ。株式会社布代表。東京造形大学名誉教授。2008年より良品計画、山形県鶴岡織物工業共同組合、株式会社アズ他のテキスタイルデザインアドバイスを手掛ける。2016年より株式会社良品計画アドバイザリーボードに就任。円空大賞、毎日デザイン賞、ロスコー賞、JID部門賞等を受賞。日本の伝統的な染織技術から現代の先端技術までを駆使し、新しいテキスタイルづくりを行う。作品はニューヨーク近代美術館、メトロポリタン美術館、ボストン美術館、ロサンゼルス州立美術館、ビクトリア&アルバート美術館、東京国立近代美術館他に永久保存されている。(撮影/小林志麻)

https://www.nuno.com/

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