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テンション表現の変遷

飯島直樹

テンション表現の変遷 – 飯島 直樹
撮影/ナカサ&パートナーズ
テンション表現の変遷 – 飯島 直樹
店舗総合見本市「JAPAN SHOP 2007」の荒川技研工業のブース。開口部にワイヤーを張ることで、人々の目をARAKAWA GRIPへと自然と向かわせることを意図した。「JAPAN SHOP 2006」では、スーパーポテトがブースデザインを手掛けており、ディスプレイデザイン賞に入選している(撮影/ナカサ&パートナーズ)

テンション表現の変遷

ワイヤーと言えば、私が在籍していたデザイン事務所・スーパーポテトでもよく使っており、特に印象的だったのは、1980年代に開催された日本のファッションブランド「PASHU」のショーである。太さ2㎜位のワイヤーを1m角程に束ね、30mに渡って吊るし、アッパーライトで照射。その下のランウェイをモデルたちが歩くというものだった。
在籍最後の頃となる1985年、ニューヨークでファッション・ショップ「JUN EX New York」を担当した際は、天井近くで100本位のワイヤーを放射状になるよう引っ張った。当時、このような施工が現地では不可能ということだったので、日本から職人に来てもらい、1週間で完成させている。
空間にワイヤーを使うことは1970年代から流行り、彫刻家の篠田守男さんの存在が大きかったように思う。「テンションとコンプレッション」という言葉を使い、半具象、抽象の力学的な表現の作品を手掛けていた。更にそのルーツを辿れば、ロシア・アヴァンギャルド(ロシア構成主義)時代のイワン・レオノニドフあたりも浮かんでくる。ワイヤーで塔を立てたり、球体を浮かしたりする緊張感のある模型を残しているが、実現したものはない。思えば、レム・コールハースもそうした影響を受けていて、初期の作品ではその影響を濃厚に感じることができる。倉俣史朗然り、重力からの解放というのはクリエイターにとっての大きなテーマである。時に橋などの土木も、浮いているがゆえに美しく見えると言えるだろう。
2007年の店舗総合見本市「JAPAN SHOP」で、私は荒川技研工業のブースをデザインすることになった。家型のフレームをつくり、窓にあたる開口部にはルーバーのように、中の階段には手すりのようにワイヤーを張った。滑車を使いワイヤーを手繰る仕組みである。こうしたワイヤーの使い方も、今ではよく見られる手法になったように感じる。〈文責/高橋正明〉

飯島 直樹

飯島 直樹

飯島直樹デザイン室

1949年、埼玉県生まれ。1973年、武蔵野美術大学を卒業後、日本のインテリアデザイン変革期にデザイン経験を開始した。杉本貴志氏が率いるスーパーポテトで「バーラジオ」「無印良品青山」などに従事し、1985年に飯島直樹デザイン室を設立。「伊丹十三邸」「THE WALL」「内儀屋」「資生堂5Sニューヨーク」「東京糸井重里事務所」「野村不動産オフィスビルPMO」「工学院大学ラーニングコモンズ」「STONES」など、幅広い空間デザインを手掛ける。著書に「casuisutica Naoki Iijima Works1985-2010」(平凡社)がある。2011~2016年、工学院大学建築学部教授。

http://www.iijima-design.com/

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