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海苔とワイヤーシステムが織りなす、 新たな素材の可能性

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Less, Light, Local – we+
創立50周年を迎えミラノにショールームをオープンした荒川技研工業が、コンテンポラリーデザインスタジオwe+をクリエイターに迎え、同社のワイヤーシステム「ARAKAWA GRIP」を活用した展示を行った。テーマを「Less,Light, Local」と掲げ、食用としては使えない板海苔に着目。光を通すことで豊かな表情が立ち現れる海苔を「ARAKAWA GRIP」で自在の高さに調整し、双方の魅力を引き出すインスタレーションと照明器具を発表した

海苔とワイヤーシステムが織りなす、 新たな素材の可能性

「ミラノデザインウィーク2023」の開催に合わせ、「Almach ArtGallery」で、荒川技研工業が主催する展示会が開催された。会場では、コンテンポラリーデザインスタジオのwe+が、素材の可能性を探究する「海苔」と荒川技研工業のワイヤーシステム「ARAKAWAGRIP」を組み合わせたインスタレーション「Less, Light, Local」を発表。ガラスや木材など異素材との組み合わせにより軽やかな空間を生み出してきた「ARAKAWA GRIP」と、丈夫で軽くサステイナブルでもある「海苔」が生み出す、新たな可能性が提案された。
we+の林登志也氏と安藤北斗氏は、「これからのプロダクトのあり方を模索すると共に、海藻大国日本から海苔の新たな活用方法を発信したいと考えた」と振り返る。

Less, Light, Local – we+
会場は、イタリア・ミラノで屈指のギャラリーである「Almach Art Gallery」。サステイナブルとデザインを組み合わせた表現ということもあり、地元の人々からの注目度も高かった。現地デザインメディアのFuorisalone.itが主催する「Fuorisalone Award 2023」のSustainability部門で、スペシャルメンションを授与した

新素材としての海苔

日本人にとっての海苔と言えば、食品の域を出ることはなかった。安藤北斗氏は、「板海苔は、意外なことに廃棄されるものも多い。食用以外の可能性を考える必要があった」と続ける。
「板海苔にはランクがあり、流通に乗れないものも多い。全体に栄養が行き渡らず変色したものは、業者間で『風邪ひき海苔』や『金髪海苔』などと呼ばれ、商品になることなく処分されてしまう。それらをうまく利活用したいという思いが、このプロジェクトを進めるきっかけになった」(安藤氏)
今回の展示では、食用としては使えない板海苔に新しい「命」を吹き込むため、建材や家具に使われる素材としての可能性を模索。インスタレーションや照明器具など、さまざまな活用を提案していた。
we+が調査の過程で興味深く感じたのは、板海苔が和紙を漉く技術から生まれたという説があること。板海苔が生まれる以前、海苔は素干しにより乾燥していた。簡便さを求めて和紙の技術を応用し、現在のような薄い板状のものが普及したといわれる。「となると、和紙が使われているプロダクトであれば、海苔でも代替可能なのではないか」と安藤氏は語り、「板海苔づくりは、日本をはじめとした東アジア特有の文化であり、クラフトマンシップが宿ったマテリアルと言えるだろう」と林登志也氏は続ける。
海苔をじっくり観察すると、表面に細かな層が見られ、豊かな表情をしていることがわかるという。そして色が落ちると、その表情がより明らかになるのだそうだ。和紙とは異なり、揺らぎを感じさせるようなまだら模様になっている点も、海苔ならではのテクスチャーの魅力となっている。
we+のリサーチでは、海苔だけでも素材になりうることがわかり、さらにでんぷん糊と掛け合わせることで、強度を高めることに成功。今回のインスタレーションを実現させることにつながった。

Less, Light, Local – we+
we+の林登志也氏(手前)と安藤北斗氏。「板海苔が工芸から派生したように、本作品もまた工芸のあり方に学び、土着の素材と技術を使って、シンプルに構成した」と語る

デザインに軸を置き社会に開く

we+は数年前から海にまつわる素材のリサーチと実験を続けており、林氏は「既にヨーロッパでは、海藻に関する研究プロジェクトが盛んになっている」と語る。「海藻をレザーや屋根材として代用するなど、さまざまな研究が進められている。日本に目を移すと、狭い国土ながら世界で6番目に広い海域を持っており、海洋資源に恵まれていることがわかる」(林氏)
ただ林氏は、「この種の環境問題は説教臭くなりがちだが、それだけは避けたい」と続ける。いかに楽しく、またデザインとして美しいものにするのかに、we+は心を砕いている。「和紙よりも美しいと言えるところまで今回のプロダクトのクオリティーを引き上げることができたら、それが最も良いことだと思う」(林氏)
安藤氏も、「海洋資源の活用は、日本にとっての課題であり、利活用によりこれまでになかったものを生み出すことができる。その点に、デザイナーとして寄与する部分がある」と語る。
「私たちの世代は、ものがあふれ、新しいものをつくらなくても良いという極論すら成立しそうである。そのような状況で、デザイナーとして何ができるのかを考えた時、既存の思考だけでは成し得ないことがあるということがわかる。何かを解決するよりも、まず何か問いを立てること。それが、これからデザイナーの大きな役割の一つになる。世界を変えることはないかもしれないが、小さな活動が積み重なれば、マス(大衆)を動かすようなことにもつながるかもしれない」(安藤氏)
林氏も、「『何のための』という問いを、いかにうまく立てるかが大切だ」と語る。「物には人を魅了する力があり、直接触れられるのなら、なおさらだろう。この力をどう強めるかに取り組みたい」(林氏)
we+の仕事は、実体があり触知できるタンジブルなものと、その反対のインタジブルなものが併存しつつ相互作用を及ぼしているように見える。「デザインとは、社会と密接につながっているものであり、その中で自分たちが問いや提言を考えていくことだ」と安藤氏。
we+の仕事がアート的と評される向きもあるが、それはあくまで表層に過ぎない。軸足は社会に開かれたデザインの域にしっかりと入っている。「Less, Light, Local」でも、その一端を垣間見ることができたように感じた。

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リサーチと実験に立脚した手法で、新たな視点と価値をかたちにするコンテンポラリーデザインスタジオ。林登志也と安藤北斗により2013年に設立。利便性や合理性が求められる現代社会において、見落されがちな多様な価値観を大切にしながら、自然環境や社会環境と親密な共存関係を築くオルタナティブなデザインの可能性を探究している。デザイナー、エンジニア、リサーチャー、ライターといった多彩なバックグラウンドやスキルを持つメンバーが集い、日々の研究から生まれた自主プロジェクトを国内外で発表。そこから得られた知見を生かし、R&Dやインスタレーションをはじめとしたコミッションワーク、ブランディング、プロダクト開発、空間デザイン、グラフィックデザインなど、さまざまな企業や組織のプロジェクトを手掛けている。近年は、自然と共に暮らしてきた歴史を学び、自然現象の移ろいやゆらぎを生かすことで、自然と人工が融合した新たなもののあり方を模索する「NatureStudy」や、都市が生み出す廃材を土着の素材と見立て、複雑になりすぎたものづくりの原点を考察する「UrbanOrigin」といったリサーチプロジェクトにも力を入れている。(撮影/小山志麻)

https://weplus.jp/

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