
必要最小限で構成した作品が環境を取り込んでいく
私は、早稲田大学芸術学校で建築を学び、美術家の野老朝雄氏に師事した。現在は幾何学や素材の特性によって構成されるパターンを用い、主に彫刻やインスタレーション、写真作品などを制作している。コロナ禍の環境下で始まった「Gravity」シリーズから、頻繁にARAKAWA GRIPを組み込むようになった。このシリーズのテーマは、「地球にまかせる」。重力によって平板が変質し、周囲の状況がさまざまな「かたち」となり現れる作品群である。私がこの立体に与えたのは、必要最小限の切り込みと吊り位置だけだ。最小の構成とし、周囲との純粋な関係を損なわないよう、本器具の採用に至った。
本シリーズは、奥能登国際芸術祭や中之条ビエンナーレ、黒島アートプロジェクトなどで展開してきた。取り巻く環境によって姿が決まる立体群が、その場所の可能性を示しつつ、新たな場をつくっていった。
2023年に開催した個展「Situated Situation」では、主に「Gravity」などの作品群を「TIERS GALLERY」に配した。建築だけが場を構成するわけではない。人やプログラムなど、流動的な状況の変化も含めて場はつくられていく。介入することは、作品の変化を生み、その変化は場所を更新していくことでもある。「周囲の状況が作品をつくり、その状況がこの場をつくっていく」という状況の連鎖とも言える。その「導」となる関係性を考えた個展でもあった。〈文/四方謙一〉