精緻な機能性を持ちつつ優美なプロダクトを求めて
1987年、長崎でブティック「KENZO」の店舗設計を手掛けるにあたって、ワイヤーのテンションを利用しようしたことが、根本氏と荒川技研工業が出会うきっかけとなった。
「それまでは、建築で一般的に使われるような、左右両端のネジをそれぞれ逆方向に回転させて締め付けるターンバックルを使いながらデザインを進めていた。またこの頃は、ワイヤーそのものが装飾的な意味合いで使われはじめた時代だったように思う」
インテリアで利用するにふさわしい、スリムで繊細な調整を可能にするテンショングリッパーが欲しいと考え、同社のプロダクトに興味を惹かれたと言う。
「1988年に設計した、ブティック『新宿高野 渋谷パルコ店』では、ターンバックル機能を持ったグリッパーをはじめ、ガラス棚およびハンガーパイプを支えるグリップなどを採用。全ての機能を一体化させたシステムで、店舗を構成することができた」
同店では、夏に水着、冬にコートを展開するなどシーズンごとの商品の入れ替えを想定しており、ハンガーや棚の高さを自由に変えられることは必須だった。
「荒川技研工業の製品開発そのものに直接関わっていないが、こういうものが欲しいというような要望は常に出しており、随時対応してもらうことができた」
そういった意味で、根本氏のプラクティカルな提言は、同社にとって製品の可能性を広げてくれる要因となったことは間違いないだろう。もちろん、重要なのは機能だけにとどまらない。
「機能を活かしながら、多様な展開に使えることを重視していた」