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インテリアとプロダクトの相互作用

根本惠司

インテリアとプロダクトの相互作用 – 根本 惠司
ブティック「新宿高野 渋谷パルコ店」(1988年)では、荒川技研工業のワイヤーシステムを採用。アタッチメントを移動させることにより、フレキシブルなレイアウト展開を可能とするインテリアとなっている(撮影/平井広行)

インテリアとプロダクトの相互作用

日本の商業インテリアシーンを牽けんいん引してきたデザイナーのひとり、根本惠司氏。「新宿高野本店」をはじめ、同社の店舗設計に長年携わるなど、数々のブランドの物販・飲食空間をデザインしてきた。荒川技研工業のプロダクトデザインにも関わっており、ワイヤーシステムを応用した卵型のキーホルダーを考案。1997年のグッドデザイン賞を受賞している。
また、後進の育成に努め、ICSカレッジオブアーツではインテリアアーキテクチュア&デザイン科II部科長として教職に就いている。

インテリアとプロダクトの相互作用 – 根本 惠司
根本氏が制作した、リンゴのオブジェ。見る角度によって、果実の色味の濃度が変わっていく(撮影/村田雄彦) 

精緻な機能性を持ちつつ優美なプロダクトを求めて

1987年、長崎でブティック「KENZO」の店舗設計を手掛けるにあたって、ワイヤーのテンションを利用しようしたことが、根本氏と荒川技研工業が出会うきっかけとなった。
「それまでは、建築で一般的に使われるような、左右両端のネジをそれぞれ逆方向に回転させて締め付けるターンバックルを使いながらデザインを進めていた。またこの頃は、ワイヤーそのものが装飾的な意味合いで使われはじめた時代だったように思う」
インテリアで利用するにふさわしい、スリムで繊細な調整を可能にするテンショングリッパーが欲しいと考え、同社のプロダクトに興味を惹かれたと言う。
「1988年に設計した、ブティック『新宿高野 渋谷パルコ店』では、ターンバックル機能を持ったグリッパーをはじめ、ガラス棚およびハンガーパイプを支えるグリップなどを採用。全ての機能を一体化させたシステムで、店舗を構成することができた」
同店では、夏に水着、冬にコートを展開するなどシーズンごとの商品の入れ替えを想定しており、ハンガーや棚の高さを自由に変えられることは必須だった。
「荒川技研工業の製品開発そのものに直接関わっていないが、こういうものが欲しいというような要望は常に出しており、随時対応してもらうことができた」
そういった意味で、根本氏のプラクティカルな提言は、同社にとって製品の可能性を広げてくれる要因となったことは間違いないだろう。もちろん、重要なのは機能だけにとどまらない。
「機能を活かしながら、多様な展開に使えることを重視していた」

インテリアとプロダクトの相互作用 – 根本 惠司
1996年度の「建築・建材展」における荒川技研工業のブース。4畳半のキューブを芝で囲み、エクステリアを表現。屋外でのワイヤーシステムの可能性を提案した(撮影/平井広行)

空間デザイナーの視点でプロダクトデザインを捉える

根本氏と荒川技研工業の関係は、年を重ねることでより深いものになっていった。1996年には、店舗総合見本市「JAPAN SHOP」でブースデザインを手掛けている。同社にとって、ブースデザインにインテリアデザイナーを起用するのは初めてのケースであり、根本氏にとってもブースデザインを手掛けることは初挑戦だったと述懐する。
「その頃はまだ、荒川技研工業がワイヤーシステムとしての展開を確立できていなかったように思う。そこで、デザイナーや建築家が集まる見本市を通して、製品を発表していくことになった」同年に開催された「建築・建材展」でのブースデザインは、インスタレーションのようにコンセプトを感じさせるものだった。
「エクステリアにおけるワイヤーシステムの展開を提案することをイメージした」
また、ブースを訪れた人々にノベルティーを配ると言う企画があり、根本氏が提案したのが、ワイヤーを使った卵型のキーホルダー「スーパーエッグ」だった。シンプルでちょっとしたノベルティーだったが、根本氏は「生まれるまでには、それなりの一喜一憂のプロセスがあった」と語る。最終型は染色したアルミニウムやプラスチックで構成されているが、当初はゴム製だった。また、アクリルや蓄光、ゴールドメッキなど、色々な「エッグ」が考察された。
「僕は空間デザイナーだが、荒川技研工業と付き合う中で、プロダクトの図面表現やディテールについて勉強させてもらったように思う」

インテリアとプロダクトの相互作用 – 根本 惠司
同展のノベルティーとして制作されたキーホルダー「スーパーエッグ」。1997年度のグッドデザイン賞受賞の商品デザイン部門を受賞した

メーカーとユーザーが生む理想のデザインサイクル

その後も根本氏は、荒川技研工業の製品カタログやプレゼンテーションの仕方にも関わっていった。契約アドバイザーとして、毎月1、2度のペースでミーティングを開催。所員も交え、ユーザーとしての意見を盛り込んだアドバイスをした時期もあったと言う。
「カタログのデザインについては、多くの金物メーカーが抱える、分厚くて重くて見づらいというイメージを改善したかった」ワイヤーを使う時に一番気になるのは直径だと考え、サイズを掲載の基準にすることを提案したのも、根本氏だ。
根本氏は、「カタログで気になる製品を見つけたら、実際に手に取ってもらいたい」と続ける。
「今は、インターネットでどんな情報も揃えられる時代。リアルに物と触れ合うことが減りがちなので、ワイヤーを使ってみたいと考える若いデザイナーには、是非ショールームで現物を確かめてほしい」技術の哲学では、「人間にとって全ての道具は、手の延長である」とされる。使い込むほどにユーザーの手になじみ、その知識が蓄積され、それがまたフィードバックされることで、より理想的なデザインや製品が生まれる。根本氏のコメントは、経験から生まれた至言である。

根本惠司

根本惠司

根本惠司設計事務所

1947年、東京都生まれ。1969年、ICSカレッジオブアーツインテリアデザイン科を卒業後、泉デザイン事務所に入社。1982年、株式会社タッチ・ダウンを設立。1989年、株式会社根本惠司設計事務所を設立。1988年、a+u NGSコンテストの最優秀デザイン賞を受賞。(撮影/小山志麻)

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