普段、都市開発や商業空間設計の仕事に携わっており、基本的には裏方としての業務が主であるが、2017年に受賞したLEXUSDESIGN AWARDがきっかけとなり、個人の制作活動が人目に触れるようになった。その流れもあり、2018年からはミラノサローネを発表の場として本格的に活動し、今に至る。大学時代の師であった杉本貴志氏の影響を受け、日本・アジア文化特有の自然観を重視して作品制作を行っていることが多いだろうか。
荒川技研工業の製品とは、設計業を始めた頃から馴染みがある。繊細ながら数十㎏の荷重に耐え、しかも可動するという圧倒的な技術力でつくられる製品群。これまで発表してきた作品で、同社のパーツを使用する機会も多く、信頼と品質に裏打ちされた製品とデザインワークは私にとって不可分の関係である。
荒川技研工業の50周年記念展のインスタレーションの制作を幸運にも任され、イマジネーションを膨らますために工場を訪れた際、加工前の真鍮材に目が留まった。同社の製品が金属という美しい元素から成り立っていることに、改めて気づいた瞬間であった。その感動をそのまま表現したいと考え、作品名を「ubique」とした。このラテン語の意味は、「遍在すること」「どこにでもあること」。製品の在り様や姿勢、この世界にあまねく浸透していくものづくりの美学そのものを表すことを意図した。
空気、風、光、影といった、形がなく流動的かつ不完全なマテリアルは、常に創作の起点となる存在でもある。それらの強い根源的で神聖な魅力にも、荒川技研工業の製品は溶け合っていける
と感じた。〈文責/高橋正明〉